名古屋高等裁判所 昭和59年(ネ)100号 判決 1985年7月18日
控訴人
破産者大浜産業株式会社破産管財人
水野祐一
被控訴人
大阪信用金庫
右代表者
鳥井淳一
右訴訟代理人
米田宏己
浅野省三
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の申立
一 控訴人
主文同旨
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張及び証拠関係
当事者双方の主張及び証拠関係は、以下に付加、訂正するほかは原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 原判決の訂正
1 原判決二枚目裏五行目の「九五〇五円」の後に「及び後記(二)の利息債権」を加える。
2 原判決三枚目表三行目の「両社」を「両者」と、同裏六行目の「当事者間」を「各会社」と、同七行目の「重複」を「兼務」と、それぞれ改める。
3 原判決四枚目表四行目の「振出した」の後に「額面合計二一一三万九五〇五円の」を加える。
4 原判決四枚目裏八行目から九行目の「依頼返却分の」を「被控訴人において取立に出してある原判決別紙手形目録(一)、(二)記載の約束手形のうち依頼返却予定の手形(同目録(一)2ないし7、同(二)2ないし6記載分)の額面合計額に相当する」と、同九行目の「振出して、」を「振出したこと、右により」と、同一〇行目の「三通の」を「三通分についても」と、それぞれ改める。
5 原判決八枚目表五行目、同六行目、同九行目の各「被告」を「破産会社」と、同裏三行目の「被告」を「破産会社」と、同四行目の「原、被告」を「被控訴人、破産会社」と、同六行目、同九行目、同一〇行目の各「被告」を「破産会社」と、同九枚目表三行目、同五行目、同七行目(二箇所)、同一〇行目、同裏二行目の各「被告」を「破産会社」と、同一〇枚目表二行目、同三行目、同七行目の各「被告」を「破産会社」と、それぞれ改める。
二 証拠関係
<省略>
理由
一破産会社が昭和五八年二月一五日に破産宣告を受けて控訴人がその破産管財人に選任されたこと、被控訴人は破産会社に対する合計二四七一万六六九四円の破産債権の届出をしたが、控訴人は昭和五八年四月二一日の債権調査期日において右債権中一九六〇万五九三九円につき異議を述べたこと、右届出債権内容は、被控訴人が大一産業及び田中稔から手形割引によつて取得した原判決別紙手形目録(以下「別紙目録」という。)(一)(二)記載の約束手形につき、右両名が被控訴人に対して負担する買戻債務残額二三〇三万九五〇五円及び右各手形の支払期日の翌日から破産宣告の前日まで年一八・二五パーセントの割合による一六七万七一八九円の利息債務につき、破産会社が昭和五七年八月三〇日に締結した本件加入連帯保証契約により連帯保証したことによる債権であること、前記手形には破産会社振出の手形三通額面合計五一一万〇七五五円が含まれており、被控訴人の届出債権中右五一一万〇七五五円については控訴人も異議を述べることなく、その存在を認めていることなどの事実は当事者間に争いがない。
二控訴人は、破産会社がした本件加入連帯保証契約による前記保証債務負担行為が破産法七二条五号の規定にいう無償行為にあたるとしてこれを否認するので右否認の抗弁の当否につき検討するに、まず、破産会社に対する破産宣告の日が昭和五八年二月一五日であり、本件加入連帯保証契約の日が同五七年八月三〇日であるから、右保証が破産申立前六か月内にされたことが明らかであり、また控訴人が昭和五八年七月二八日の原審第一回口頭弁論期日に被控訴人に対し右否認の意思表示をしていることも記録上明らかである。
そこで、本件加入連帯保証契約締結の経緯をみるに、<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。
1 被控訴人は、昭和五七年七月末日当時、別紙目録(一)記載の約束手形七通を大一産業から、同(二)記載の約束手形六通を田中稔からそれぞれ手形割引によつて取得してこれを取立に出していたところ、右手形中、同月三一日を満期とする額面二〇〇万円の手形(別紙目録(一)1記載分)と額面三〇〇万円の手形(同目録(二)1記載分)の振出人である吉田産業は、詐欺を理由に右各手形の支払を拒絶した。
2 一方、大一産業及び田中稔も、その頃、相次いで銀行取引停止処分を受け、あるいは和議手続開始の申立をして倒産し、被控訴人との信用金庫取引約定に基づいて手形割引を受けた手形全部について、それぞれ買戻義務を負担するに至つた。
3 吉田産業代表者は、前記支払拒絶後、被控訴人を訪ね、前記支払拒絶分の手形に関して異議申立提供金五〇〇万円の供託をしていること、別紙目録(一)、(二)記載の手形振出人である吉田産業、破産会社、ファースト産業の三社はいずれも関連会社であり、右手形金額を吉田産業において分割払の方法によつて支払うからその支払期限を延期してもらいたいとの申入れをした。
4 被控訴人は、右申入れをうけて、昭和五七年八月三〇日、吉田産業とその代表者、破産会社、ファースト産業のほかその関連業者である株式会社大蔵、鈴木孝雄との間で、右六名が大一産業、田中稔の被控訴人に対する前記手形の買戻債務合計二六一三万九五〇五円と右手形金に対する利息債務五二二万一六七七円の債務を承認してこれを連帯保証し、吉田産業は昭和五七年九月一〇日までに前記供託金五〇〇万円中二五〇万円をもつて右債務の一部を弁済するほか、残額二五〇万円と別紙目録(一)2ないし7、同(二)2ないし6の手形一一通の手形金合計二一一三万九五〇五円を昭和五七年九月以降毎月三〇万円宛分割して支払う旨を約し、一方、被控訴人は右各手形を権利保全のため取立には出すが、いずれも依頼返却の形でこれを取り戻す旨を約し、その趣旨の本件加入連帯保証契約を締結した(右締結の事実は当事者間に争いがない)。
5 吉田産業は、前項の支払のため、額面三〇万円、各支払期日を満期とする約束手形を振出し、破産会社がこれに裏書をしたうえ、被控訴人に一括交付したが、吉田産業は右手形のうち二通分の支払をしただけで倒産した。
以上の事実が認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。
ところで、破産法七二条五号所定の行為とは、客観的に観察して、破産者が対価を得ることなく積極財産を減少し、あるいは債務を増加させる結果を招来するような一切の行為及びこれと同視すべき行為を指すものと解すべきところ、前認定の事実関係によれば、破産会社がした連帯保証は、自ら手形振出人として負担すべき手形金五一一万〇七五五円を遙かに超える約二五〇〇万円の債務についてされているのであつて、右手形金の額を超える他人の既存債務についての保証は対価なくして債務を増大させる行為というべきであり、たとえ右保証により手形金債務につき手形の依頼返却による支払猶予を得るにしても別段右債務の免除を得たわけではなく(破産会社は、吉田産業振出の分割払のための手形につき裏書人としての債務を負担しているのであるから、破産会社振出の前記手形金債務につき吉田産業がその全額を肩代りしたとみることも適当でない)、かりに右支払猶予により得られる利益を経済的利益とみることができるとしても、これと引換に前記手形金債務の額を超えて新たに負担した約二〇〇〇万円の保証債務の額及び主債務者たる大一産業、田中稔の支払能力、分割払のため吉田産業が振出した手形に破産会社も裏書人としての責任を負担している事実等の諸事情を比較勘案すれば、前記保証債務負担行為はこれを無償行為と同視すべきものと認めるのが相当というべきである。
してみると、控訴人主張の否認の抗弁は理由があるといわざるをえず、本訴請求はこれを棄却すべきである。
三以上の次第であるから、右と結論を異にする原判決はこれを取消して本訴請求を棄却することとし、民訴法三八六条、九六条、八九条により、主文のとおり判決する。
(可知鴻平 石川哲男 鷺岡康雄)